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歌川豊国
  
   歌川国貞〔五渡亭・香蝶楼〕三代豊国  天明6年(1786)〜元治元年(1864) 歌川国貞は、19世紀の後半、すなわち江戸時代末期の浮世絵界で、良く知られていた 歌川豊国一門の社中に、新星として出現した逸材である。彼は画壇登場後、急速に頭角 を表し、師の豊国を扶けて、この派を最盛に導き、役者似顔の芝居絵と、艶冶な美人 風俗画その他に卓越した技量を発揮する。又、戯作文学の挿絵や絵本類にも活躍して 人気を博する。後年、師の豊国の名を嗣いでからは、従来作品制作に導入されていた 工房システム制を、極度に効率的に運用して、製品の量産を高め、歌川一門の繁栄を、 江戸期の末まで、よく持続させ得た才気と手腕の絵師でもあった。 始めは専ら役者絵制作を事とし、数々の舞台姿図、新機軸ともみられる楽屋俯瞰図、 役者日常姿図等を描き大首絵の「役者はんじもの」「大当狂言の内」等の力作を続発し、 その後美人画制作に意欲を注ぎ、五渡亭と名乗った文化期から文政期町人文化の 醸成期を反映した庶民感覚にあふれた国貞独特の溌剌とした美人画が生まれるのである。 歌麿の静的な理想美の優婉な描写とは異なったこの嬌艶美を、日本の批評家は一概に 頽廃堕落の型にはめるが、躍動的な生活美に視点をおき、表面の絢爛より、内部に秘 めた屈折した感情を描きこむ渋さを喜ぶ感覚による制作であった。女性の姿態に身の 締まった嬌艶さが加わり「粋」や「張り」といった気質の特色をみる。それをとりまく 背景描写画面に取り入れられた小道具の面白さ・・・1823年に来日したシーボルトが 収集し(オランダ国立ライデン民族博物館)、ルーブル美術館が大量に購入(国立ギメ 美術館所蔵)世界のコレクター、博物館、美術館が収集したのも春信や清長、栄之の 美人画や上品な浮世絵肉筆画には無い違った美しさを見抜いたからであろう。 芝居絵の「大当狂言の内」「俳優日時計」も力作だが、五渡亭国貞の美人画シリーズ 「吉原時計」「北国五色墨」「星の霜」「江戸自慢」「当時高名会席尽」など全身像を 描いたものが特に優れている。 弘化元年(1844)三代豊国を襲名後内外からの注文に追われ典型化が目立つが、幕府の 禁令も柔らいだ中(1860年)ヨーロッパへの需要に応じ、精緻な彫、摺りを駆使した 贅沢な錦絵シリーズ「今様三十二相」「豊国漫画図絵」「役者大首絵」「花揃出情競」 など見るべき作品も多い。

2006年7月 三島茜画廊