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深沢幸雄
  
 深沢幸雄  大正13年 山梨県に生まれる。昭和23年東京美術学校金工科卒業後、しばらくは油絵を制作していたが、独学で銅版画を学ぶ。
 昭和37年には現代日本美術展優秀賞を受賞、昭和38年にメキシコ国際文化振興会の招待でメキシコに渡り銅版画技法を教える。以後、メキシコの風土、人間性、強烈な原色に魅せられ、それまでの白黒版画に替わり色彩版画を多数製作するようになる。昭和47年フェレンツェ国際版画ビエンナーレでバンコ.ディ.ローマ賞受賞などアメリカ、スイス、カナダ、イタリア、ベルギーをはじめ世界各国主要展覧会に出品している。一版多色刷りの技法を駆使したその作風は、自らが(第二の故郷)と呼んでいるメキシコの眩しい光と烈しい色彩とを取り入れながらも,線の厳しさとグラデュエーションの微妙さにより,洗練され、かつ深みを保持している。
 「銅版画のテクニック」という著書が示すように、銅版技法の神様と言われるほど多様自在な銅版技法を開拓し、自らの作品にそれを駆使してきた。初期の白黒作品は、内的視線を有情の白黒画面に構築し直した骨格の大きな作品が多いが、昭和36年より始めたカラー作品では、金属を感じさせる硬質の線面を重ね合わせて、人間の内的世界をえぐり出したような作品が多くなる。近年は情念を主題に乾いた遊びを版面で展開させている。
 昭和49年、深沢は11年ぶりにメキシコを訪れた。マエストロ、フカザワ、シロイケス個展(色彩版画の自選代表作)60点出品のためであった。かっての教え子たちもそれぞれに成長し、旧交を温め、またヌサント.ドミンゴの版画工房においてタマヨの新技法の刷りについて助言を与えるなど「故郷に帰ってきた思いがする」と言う環境の中で、多忙な日々を過ごしていた。展覧会はメゾチント、エッチング、アクアチントを駆使した【深沢芸術の結晶】として大評判であったが、メキシコ訪問のもう1つの目的は、更に新しい主題の探求であった。目はインディオに向けられた。スペインに征服された不遇な環境、其れ以前にあった民族内での抗争、原始宗教の悲惨なドラマ。そして更に遥か遠く、時間と空間を超越してアジアからのモンゴロイドの新大陸移住と、壮大な叙事詩へその思いは息せき切って募っていった。
 昭和49年に制作された<影〈メヒコ〉>ではスペイン征服の痕跡を象徴的に構成し、<掌の中の影>(昭和51年)では黒く翳した手、悲哀の時間を刻む指紋、凝視する眼によって宿命のインディオを見,さらに<凍れる歩廊(ベーリング海峡)>(昭和53年)では、人類未踏の氷河横断と言うモンゴロイドの一大叙事詩をうたいあげている。<アシェンダの地下にて>(昭和55年)ではアシェンダ(大農場主)の地下牢に蹲るインディオおシルエットとし、上部に花、下部に迫害された人、画面中央に鉄格子と劔をおき、その悲惨なドラマを描いていく。
 新大陸のモンゴロイドの末裔は、現代の21世紀においても世界の主流から離れ,黙々とその生の営みを続けている.有史以前からの一大叙事詩、近代に至るもでの深い歴史の中に、どうしようもない人間の業を見つめ、その全てが人間の根元へと結びつく、普遍的な課題としてとらえ、それお銅板に刻みこんできた。
 電動ベルソーを完成、メゾチントを主要な技法とするようになり、これまでとは全く異質の次元の中に、ふと自分を置きたくなったのであろう。
 <訪ねて来る人>はその最初の作でる。深々ときめ細かく重なり合う穏やかな色調、ほのぼのとした柔らかなフォルム,そこには夢が透過するような空間の演出がある。<鏡の前の人>では同じ発想であるがさらに端正を増し、<酒場にて>になるとさらに美しい透明感となる。ひそかな秘めた対話が、そっと空間を埋めていく。<窓ガラスの日記><小路を行く人><憂愁市街><堕天使><月下の対話><樹精>などその内容は更に豊かである。ここでは前期の壮大な叙事詩に対する客観的、理性的な解釈は不要であり、あくまでも主観的な感性の中にそっと自己を埋没させることによって、自ずと現れてくる夢のような感触なのである。本質的な詩人の醸し出す秘めやかな叙情、それは今もなお継続されている。
 平成2年にはメキシコに開設された国立版画美術館での個展のために、メキシコ、スペインを往復した。<寝ぼけた詩人>は時差ぼけで閉口する自分自身を投影したものであり、その中にあるユーモアとウイットに富むエスプリをみて、改めて作家の素顔を感ずるのである。
 平成6年メキシコ政府より文化勲章(アギラ.アステカ勲章)を受ける。

2002年11月 茜画廊


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